宣伝会議賞の哲学

宣伝会議賞を通して、コピーライティングのあるべき姿を考えていきます。

第56回宣伝会議賞 課題分析 21.セメダイン

「課題分析シリーズ」、第21回は、セメダイン

 

◆出題に拍手

まずは、出題の仕方に拍手を送ります。
どうすれば最高の成果を上げられるか
考え抜いた結果ではないでしょうか。

 

◆過去作の改変は・・・

続けて似た課題が出題されていることもあり、
一次審査通過作品の中には似たものが多い。
そういうの、そろそろやめにしませんか
「パクリ」の問題もあるけれど、それより、
出題企業への提案としての価値の問題です。

今回の課題グラフィックののダメ出しを基に、
「設計図」を基にした作品が予想されますが、
前々回(第54回)の協賛企業賞受賞作は、
あのままでもう、最高の完成形だと思います。
劣化させて一次審査を通過してもしょうがない

また、課題のページになかったものの中では、
「B to B」をわざわざややこしくしたもの
これはそもそも、一次審査を通過しているけど、
ターゲットにはヒットしないんじゃないかな。
技術課題が解決できるかが問題であって、
「これは B to B だな」なんて考えないし。

 

◆「切り口」や「発見」は必要か?

過去作と似た応募作が多くなってしまうのは、
「切り口」や「発見」に縛られているかも。
そもそも、そういうのは本当に必要なのか?
本当に必要だとして、何のために必要なのか?

以前のブログのこの記事も読んでもらえれば。
後半の、宣伝会議賞と広告効果の部分を。

http://adream.hatenablog.com/entry/2016/09/11/185821

セメダインさんも、ここに囚われているのかも。

 

◆「技術パートナー感」を

何か特別な価値を訴えるより、こっちでは。
「技術パートナー感」を醸成する目的なら、
もっと違うアプローチもあると思うのです。

ちなみに、前々回の協賛企業賞受賞作は、
今でもすばらしい作品だと思っています。
ただ、なんだか変な言い方になりますが、
いきなり最高の価値まで到達してしまい、
実務的には「早過ぎる」のかもしれない。

「技術パートナー」としてのセメダインが、
まだあまり知られてすらいないのであれば、
実際に効くかどうかという観点からは、
もっと素朴な「自己紹介」とか「挨拶」とか
実はそういうものを考えた方がいいのでは。

 

◆『「セメダインの」接着技術が』

このオリエンの注意書きを守る上でも、
上記のアプローチは有効に思えます。
企業名を入れてしまえばいいのですが、
必ずしも作品自体に入れなくてもいい。

接着技術一般についての事実の提示では、
「セメダインの」にはなりそうにない。
でも、「自己紹介」や「挨拶」なら
広告のどこかに企業名が入るとすれば、
「セメダインの」になりやすいのでは。

 

◆「何を言うか」と「どう言うか」への疑問

「切り口」や「発見」という考え方の背景には、
「何を言うか」と「どう言うか」がありそう。

もはや誰も疑問を持たなそうなこの言い方に、
実は、私は以前から疑問を持っていました。

コピーって、何をどう言うかとかではなく、
「何を起こすか」「どう起こすか」では?
英語で言えば、"What to Make" & "How to Make".

いや、それはそれで先に考えているんだ、
という反論が、きっと出るでしょうね。
広告の目的の重要性は、言い方こそ違えど、
多くの人が指摘してきているのですから。

が、目的を何をどう言うかに還元する
その過程で何かが脱落しているような。
音楽が楽譜になっちゃった、みたいな。
音楽は演奏家が再構成してくれますが、
広告の受け手はそうはいかないでしょ。

 

◆あの名コピーの秘密

私が最もリスペクトしているコピーが、実はこれ。

 日テレ営業中。

このコピーの、"What to Say"は何でしょう?
その問い自体が、ナンセンスじゃないですか?
でも"What to Make"は、確かにあったはずです。
これは決して特殊な例ではないと思っています。

 

◆「何を/どう言うか」はなぜ普及したか

「何を/どう言うか」と「何を/どう起こすか」、
両者が限りなく近づく課題も、もちろんある。
でもそういう場合は、普通に言えばいいのでは。
宣伝会議賞的な表現の工夫は不要だと思います。

「何を/どう言うか」がここまで普及したのは、
「何を/どう起こすか」より語りやすいから。
正しいからではない、私はそう考えています。

前者の方が、営業上も教育上も説明しやすい。
それに、前者でも効く場合は少なくないし。
でも、本当は過剰な一般化だと思うのですよ。
少なくとも、新鮮なコピーを開発する上では

後者は、論理的に語ることが難しいでしょ。
楽譜は音楽理論的に語ることができるが、
音楽は違う、それに近いものがあるような。

前者が普及したもうひとつの理由として、
その考え方が生まれた社会の経済環境
もあるかもしれないけど、これは考え中。

 

◆出題に戻って・・・

本課題を考える上でのヒントになるかも、
そう考えて提示してみたこの論点ですが、
実は、出題の仕方にも当てはまるのです。

セメダインさんは、前回までの課題でも、
「こういうコピーを」と「言っていた」
でも、望んでいた結果は「起きなかった」
今回は、「何を/どう起こすか」を考えた
その成果が、あの最高のアイデアなのでは。
これこそ、コピーでありクリエイティブ

あれ、誰もついてきてないかな・・・。

 

次回は、「22.ソニー損害保険」。