宣伝会議賞の哲学

宣伝会議賞を通して、コピーライティングのあるべき姿を考えていきます。

第56回宣伝会議賞 課題分析 49.三菱一号館美術館

「課題分析シリーズ」、第49回は、三菱一号館美術館

 

◆ターゲット

「普段、美術館に行かない」ことに加えて、
「丸の内に縁がある」でいいんじゃないかな。

これまで美術館に興味がなかった多くの人が、
いきなり全国からこの美術館に殺到する、
というのは、さすがにハードルが高すぎる。
それに、立地を無視して集客するとなると、
より「美術」に踏み込まざるを得なくなり、
美術館に行かない人には共感しにくくなる。

せっかく昼間人口が多いエリアでもあるし、
「立ち寄ってもらう」ぐらいのイメージで。

また、オリエンには「若い世代」とあります。
典型的には、丸の内で働く若い人たち、かな。

 

◆他の美術館との違いを意識するか?

東京駅周辺には他にも4つの美術館があり、
立地だけなら、それらの美術館にも該当。
でも、そこは気にしなくていいと思います。
むしろ、それらの美術館とは連携関係にあり、
「競合」というより「協働」しているわけで。
なんなら、5館共同で広告を出してもいい。

 

◆割引系は・・・

いくつか、お得な割引制度がありますね。

まず、年間7500円の「サポーター制度」
本人と同伴者1名が、何度でも入館可能に。

また、毎月一度の「アフター5女子割」では、
17時以降の女性の入館料が1000円に。
プラス、食事割引などの特典もあるらしい。

おすすめは、「東京駅周辺美術館共通券」
2500円で東京駅周辺の4館を一度ずつ。

ただ、本課題の出題の趣旨を考えると、
経済的メリット中心のものは避けたい。
そもそも行く習慣がないわけですから、
いくら割引があろうが足が向きにくい

絡めるのはなくもないかもしれないけど、
出題企業が期待しているものではなさそう。

 

心理的な何か

「新しい私に出会う」がスローガンですから、
それにふさわしい、心理的な変化への期待を。
上記のようなターゲット像を想定するならば、
「美術」自体に入り込み過ぎるのは避けたい。

また、説得系も本課題には相応しくなさそう
「新しい美術館の楽しみ方のヒント」という、
オリエンのポイント1にある観点で考えると、
新たなメリットの提示は価値はあるんだけど、
「行くべき」と言われて行くものでもないし、
「行ってみない?」ぐらいにできないかな。

 

◆新鮮味

とはいえ、ありきたりなものでは埋没しそう。
例えば、「落ち着く」をややこしくてもねえ。
気持ちがどう変化するのか、新鮮な表現で。

 

◆「一人称未来/現在完了(?)」推奨

美術館に行かない人がターゲットですから、
美術館に行く人が「一人称過去」で語るのは、
受け手の過去の経験に共感の基盤がないのでは。

また、心理的な変化に焦点を置くとすれば、
「二人称」や「三人称」も効きにくそうな。

となると、「一人称未来」が有力でしょうか。
「私はこうなりたい」という受け手の想いを、
美術館を訪れることに重ねるような感じの。

もっと言えば、「一人称現在完了(?)」とか。
よく行く人の「過去の経験」を語るのではなく、
初めて行った人の「いまの想い」を語るような。
心理的な変化が起きたその瞬間」ですね。

 

◆品位を落とさぬよう

宣伝会議賞では、よく軽視されがちな問題。
特に本課題では、品位の欠如は致命的にも。

例えば、「デートに誘う云々」もあっていい。
ただ、あくまでも「美」を損なわないように
それを見た女性が拒絶したくなるものは不可。

その他の非心理的メリットを提示する場合でも、
世俗的すぎる印象にならないよう注意したい。

 

◆プレゼントにも

上記の「サポーター制度」のパンフレットでは、
プレゼントとして贈ることも想定されています。
また、嫌がる部下を無理に飲みに誘う代わりに、
上記の「共通券」を贈る上司がいたら素敵では。

この場合、広告とサービスでターゲットが違う。
ただ、それでも贈られる側への意識を大切に
「贈りませんか」は、普通に言えばいいでしょ。
むしろ、一緒に贈るメッセージを言語化したい

「部下にこれを贈った。見る目が変わった。」
とかは、贈ること自体はセンスがよくても、
そのコピーがセンスが悪いじゃないですか。

包装用の封筒に載せるコピーを考えるとか。
この想定なら、「人称」はどうするべきか。
贈る側の「一人称」、贈られる側の「二人称」、
つまり、贈る側が贈られる側に発することば
というのがオーソドックスになるのかな。
広告の受け手にとっての「一人称」になるし。

ただ、贈られる側の「一人称」にした方が、
重くなりすぎなくていいような気もします。
これでも、贈る側にも効きうると思います。
広告の受け手が投影するのは自分とは限らず、
プレゼントを贈りたくなる相手であることも。

 

次回は、「50.明治座」。