宣伝会議賞の哲学

宣伝会議賞を通して、コピーライティングのあるべき姿を考えていきます。

第56回宣伝会議賞 課題分析 37.日本触媒

「課題分析シリーズ」、第37回は、日本触媒

 

◆「言う」ことと「感じてもらえる」こと

第52回の課題発表号の140ページの記事によれば、
「コーポレートスローガンでよく使われている言葉(英語)」
として、"innovation"は"life"に次いで2位になっています。

じゃあ、"innovation"がスローガンに入っている企業に、
どれくらい革新的なイメージがあるかと言えば、疑問。

「言う」だけなら、いくらでもバリエーションはできる。
でも、「感じてもらえる」かどうかは別問題なわけで。
「感じてもらえる」アプローチの発見が肝になるはず。

 

◆材料は?

オリエンには、日本触媒ならでは」とあります。
「革新的な」と言うからには、未来感も欲しい。
とはいえ、課題31の分析でも書きましたが、
出題企業の「現在の姿」に何らかの根拠が欲しい

ただ、何らかの技術や事実を材料にするとしても、
それ自体の紹介では物足りないし、提案価値も低い。
そこからどんな企業イメージを紡ぎだせるかの勝負。

 

◆「おむつ」を脱ぎ捨てて

課題やオリエンの方向性は、一貫しています。
「おむつ」のイメージを強化したいわけじゃない
そっちを100%拒絶しているかは不明としても、
「これくらい書いておけば誤解はされないはず」、
そういう常識的な想定をしていると思われます。

また、出題を云々する以前に、本課題の方向性は、
経営の方向性を反映したものでもあるのです。

『新生日本触媒 2020 NEXT』
http://www.shokubai.co.jp/ja/news/file.cgi?file=file1_0268.pdf

12ページの「経営戦略」には、「重要課題」として、
「SAP事業の死守」「成長事業・分野へのシフト」
"SAP"は、"superabsorbent polymer"、高吸水性樹脂
さらに、18ページの「事業ポートフォリオ」では、
2016年度を基準に、2020年度に新規事業10%が目標。

なお、上記資料ではSAP事業の苦戦が窺われるも、
最新の『会社四季報』によれば、復調傾向らしい。
とはいえ、もともとSAP以外の事業もある上に、
新規事業の育成を打ち出しているわけですから、
応募作がSAPに集中するのは容認しがたい

 

◆「宣伝会議賞 みんなで間違えば 怖くない」のか?

話は飛んで、前回のセントラル警備保障の課題
前回の「課題分析シリーズ」の記事もご参考に。

http://philosophies-of-ska.hatenablog.jp/entry/2017/12/01/220000

ファイナリスト作品を見て予想はできましたが、
一次審査通過作品の多くは課題に対して的外れ

「協賛企業のコメント」には、こうあります。

 今回の課題である「当社の全国区での認知度向上」に限定せず、
 多くの皆さま方が警備業界に目を向けられたことに感謝申し上げます。

「に限定せず」ではなく「を無視して」ですが・・・。

このコメントがどんな思いで書かれたのか、
担当者の真意は永遠に謎のままになりそう。
ただ、「感謝」されている場合じゃないでしょ。
宣伝会議賞の「パトロール」もお願いしては。

 

◆最低限の国語力と良識を

この例に限らず、宣伝会議賞ではしばしば、
応募者が「数を書く」のに都合のいい方へ、
課題がずらされたり矮小化されたりします。
それに対する真摯な反省はなされておらず、
「たまにはあるよね」で済まされていそう。

「たまに」どころじゃないだけでも問題ですが、
私がより問題視したいのは、問題の量より性質
この現象が、「ランダムエラー」というよりは、
「システマティックエラー」だろうということ。
精度を高めて「エラー率」を減らすことよりも、
基本的な考え方を「較正」する必要がありそう。

なんだか大袈裟な話になってきましたが・・・。
単純に最低限の国語力がなくてやっているのか、
一次審査通過のために戦略的にやっているのか、
いずれにしても、放置してはいけないはずです。

この状況が続けば、せっかくの宣伝会議賞が、
協賛企業という豊かな資源を焼き尽くす、
焼畑農業になってしまうのではないか。
それどころか、実質的な「協賛金詐欺」により、
コピーライティングへの評価を毀損するとか。

 

次回は、「38.日本アルコン」。