宣伝会議賞の哲学

宣伝会議賞を通して、コピーライティングのあるべき姿を考えていきます。

第56回宣伝会議賞 課題分析 17.サントリー

「課題分析シリーズ」、第17回は、サントリー

 

◆ブランドイメージとの整合性

既存のブランドイメージとの整合性は必要か?
宣伝会議賞が「試作の場」であるとすれば、
一般論としては、必要とまでは言えない。
まったく違う方向性を試してみてもいい。
製品とマーケットに基づく狙いがあれば。

ただ、本課題の場合は、整合性は必要では。
緑茶の場合、もちろん味の違いもあるけど、
商品に占めるイメージの比重は低くない。
特に「伊右衛門」の場合、競合商品以上に、
商品名自体でイメージが規定されている
CMにレディー・ガガを起用したくなるとか、
商品名を「修造」や「慈英」にしたくなるとか、
そういうコピーはもはや「伊右衛門」じゃない

一貫したブランドイメージがありますし、
ここはむしろ、それを活用してみたい。
既存のイメージを基に飛躍してみる
それが結果的に商品のためにもなりそう。

 

◆自分との対話

「心のざわつき」がオリエンのキーワード。
ふとした時に、自分をちょっと見つめ直す
そんなシーンが浮かぶものがよいと思います。

方向性のイメージを具体化するためにも、
商品サイトにあるCMを・・・あれ?、
応募期間中は何本かあったのに・・・。

でも、グラフィック広告がありますね。
課題グラフィックと同じ写真を使った。
そこで使われているコピーが、これ。

 ときには 折れたり へこんだり
 いつでも ここへ おいでやす

これが、方向性を具体化してくれています。

 

◆人称

上記のような「自分との対話」を描くとして、
主に「一人称」「二人称」が考えられそう。
「一人称」は、自分の思いを吐露する感じ。
「二人称」は、誰かが語りかけてくれる感じ。

あ、「三人称」は、堅すぎる気がしますね。
「自分との対話」ということで考えれば、
名言とかもきっかけにはなりそうだけど、
商品につなげるためにも情緒は欲しい

 

◆ポジティブ側を

上記の「人称」の区別にも関係するのですが、
「一人称」だと、ネガティブになりがちかな。
「そんな時こそ伊右衛門を」のつもりでも、
ポジティブな状態がイメージしにくそう

課題によっては、ネガティブな状態を描けば、
この商品/サービスで問題を解決できますよ、
というメッセージを送ることができますよね。
でもこれは主に、問題の存在が認知されておらず、
まずは問題の存在に気付いてもらおうという場合

本課題は、そうではないと思います。
「こんな時間を過ごしてみませんか」
という提案をポジティブに提示したい。

が、「一人称」でいきなりポジティブでは、
この商品の場合、共感を得にくいような。
「二人称」で、誰かの助けを借りてみたい
宮沢りえさんが語りかけてくれる感じとか。

上記のグラフィック広告も「二人称」だし、
CMもたしかそうだったと記憶しています。
「京都福寿園」を訪れる人が思いを吐露し、
それに対して宮沢りえさんが語りかける。
「人称」の観点から、この構図は合理的

 

◆さすがはサントリー

この課題は、分析で検討すべき点が少ない。
課題グラフィックの宮沢りえさんの佇まいと、
「心のざわつき」に絞ったオリエンだけで、
進むべき方向が自然に明確になっている
商品の認知度だけがその理由ではないはず。
サントリーさんのブランド構築力に敬服

逆に言えば、他の多くの課題はそうじゃない。
「書く以前」をしっかり考えておかないと、
応募者は的外れなものを作ってしまうし、
審査員は的外れなものを選んでしまう。

 

次回は、「18.JVCケンウッド」。